その2 三環系,四環系抗うつ薬


奈女良 昭,工藤恵子,堀  寧,山口芳裕,中谷壽男

・簡易分析法
  イムノアッセイ法(Triage●).試料:尿140μl.検出下限:1μg/ml.
・機器分析法
  GC/MS法.試料:血液1ml.検出下限:100ng/ml.
・重症な症状の出現する血中濃度:1μg/ml以上.
 商品名(成分名)
 1) 三 環 系
 アナフラニール●(クロミプラミン)
 アモキサン●(アモキサピン)
 アンプリット●(ロフェプラミン)
 トフラニール●,イミドール●,ルクリテミン●(イミプラミン)
 トリプタノール●,アミプタノール●(アミトリプチリン)
 プロチアデン●(ドスレピン)
 ノリトレン●(ノルトリプチリン)
 2) 四 環 系
 テシプール●(セチプチリン)
 テトラミド●(ミアンセリン)
 ルジオミール●(マプロチリン)

1. 概   要
 抗うつ薬の多くは,脳内の神経終末においてノルアドレナリンやセロトニンの再取り込みを阻害,あるいは放出を促進することによって作用を示す.この作用を示す薬物のなかで,分子内に三環および四環構造を有するものを三環系・四環系抗うつ薬と呼ぶ.抗うつ効果の面から,依然として古典的な三環系抗うつ薬が高い頻度で使用されている.(財)日本中毒情報センターへの問い合わせ件数は1999年に69件1),2000年は87件2)で,医薬品中毒に関する問い合わせの2%を占めているが,処方量の多さから,イミプラミンとアミトリプチリンによる中毒が大半を占めている.

2. 簡易検査法
 高価な機器を用いずに簡単な操作で分析できるのがイムノアッセイ法(トライエージDOA)で,抗うつ薬濃度が1μg/ml以上あれば定性可能であり,検査試料は140μlである.抗うつ薬以外に抗不安薬,中枢神経系薬なども同時に確認できる.本製品は,国際試薬(株)(学術部学術情報グループ:TEL 078-231-9321)より市販されている.

3. 機器分析法
 国内において使用されている環系抗うつ薬は10種類(日本医薬品集,日本医薬情報センター編)あるが,化学構造が酷似しているために一斉分析は困難である.前処理方法は,液液抽出法や固相抽出法が利用できる.機器分析法は,高速液体クロマトグラフ法3〜6)やガスクロマトグラフ法7,8)が報告されており,目的に応じて方法を選択する必要がある.以下に1例を示す.
 【前処理方法】
 @ 試験管に試料0.5ml,蒸留水0.5ml,20%炭酸ナトリウム水溶液0.2ml,プロメタジン溶液(0.1mg/ml,内部標準)25μlを加えて撹拌する.
 A ヘキサン-イソアミルアルコール混液(98.5:1.5,v/v)3mlを加えて2分間振とうして抽出する.
 B 3,000rpmで3分間遠心分離する.
 C 有機層2.5mlを新しい試験管に取り,窒素気流下で溶媒を留去する.
 D 残渣をヘキサン0.5mlで溶解し,その1μlをGC/MSを注入して分析する.
 【分析条件】
 装 置:HP-5890 ガスクロマトグラフ/HP-5971A質量分析計(Hewlett Packard)
 カラム:HP-5MS溶融シリカキャピラリーカラム(30m×0.25mm i.d.,膜厚0.25μm,Hewlett Packard)
 オーブン温度:170℃(1min)・5℃/min・280℃(4min)
 注入口温度:250℃
 検出器温度:280℃
 キャリアガス:ヘリウム(100kPa)
 検出質量範囲:m/z50〜500
 【定量方法】
 定量には,各薬物に特徴的なイオンを用いる.方法は,各薬物のピーク面積値と内部標準物質の面積値の比を基に,あらかじめ作成しておいた検量線より算出する.
 定量に用いる特徴的なイオン
 アミトリプチリン;m/z 58
 アモキサピン;m/z245
 イミプラミン;m/z234
 クロミプラミン;m/z269
 セチプチリン;m/z261
 デシプラミン;m/z234
 ドスレピン;m/z 58
 ノルトリプチリン;m/z202
 マプロチリン;m/z277
 ミアンセリン;m/z193
 プロメタジン(IS);m/z 72

4. 症   例9)
 35歳,女性.某日午前中,自宅で倒れているところを家人に発見され,救急車で近医に搬送されたが,すでに死亡していた.自室より空の薬包が多数みつかり,薬物の服用による中毒死が考えられた.既往歴は低血圧,うつ病,不眠症などがあり,抗うつ薬や抗不安薬が処方されていた.空の薬包のなかで最も多かったのはテシプール●(マレイン酸セチプチリン)で,200錠分が発見された.GC/MSによる薬毒物分析の結果,胃内容物,血液,尿からセチプチリンが検出され,血中濃度は1.77μg/gであった(図2).

5. 血中濃度と重症度
 過量服用による中毒症状では,血漿中濃度と痙攣,不整脈などの症状が相関しているとの報告が多い10).これらの報告のなかで,重篤な症状の出現する血中濃度は1μg/mlとされていることから,0.1〜10μg/mlの定量範囲が必要とされる.搬入時を含む2点以上で血中濃度の推移をみれば,血中消失動態を評価することも可能である.

6. 体内動態
 経口投与の場合,腸管から容易に吸収される.脂溶性であるために速やかに各臓器へ移行し,また,血漿蛋白との結合率が高いため,脳や心筋などの組織では血中濃度の10〜40倍の高値を示す.
 代謝は,肝臓で脱メチル化や水酸化され,その後グルクロン酸抱合されて尿中へ排泄される.血中半減期は12〜24時間である.デシプラミン(イミプラミンの代謝物)やノルトリプチリン(アミトリプチリンの代謝物)も抗うつ作用を示すことから,血中濃度を測定する場合,代謝物の濃度も含めて考慮する必要がある.

7. 臨床所見11)
 初期症状としては,抗コリン作用に由来する動悸,口渇,排尿困難などの症状がみられる.大量服用の場合には,服用30分後から中枢神経や心血管系症状がみられる.

8. 治   療11)
 一般の薬物中毒と同じように,全身管理や合併症対策,腸管内や体内の薬物の除去があげられる.心電図の変化が重症度の判断に有効であることから,心電図監視がすすめられる.


 文 献
1) (財)日本中毒情報センター:1999年受信報告.中毒研究 2000;13:201-20.
2) (財)日本中毒情報センター:2000年受信報告.中毒研究 2001;14:145-64.
3) Proeless HF, Lohmann HJ, Milles DG:High-performance liquid-chromatographic simultaneous determination of commonly used tricyclic antidepressants. Clin Chem 1978;24:1948-53.
4) Beierle FA, Hubbard RW:Liquid chromatographic separation of antidepressant drugs:I. Tricyclics. Ther Drug Monit 1983;5:279-92.
5) McIntyre IM, King CV, Skafidis S, et al.:Dual ultraviolet wavelength liquid chromatographic method for the forensic or clinical analysis of seventeen antidepressants and some selected metabolites. J Chromatogr 1993;621:215-23.
6) Tanaka E, Terada M, Nakamura T, et al.:Forensic analysis of seven cyclic antidepressants in human biological samples using a new reversed-phase chromatographic column of 2 mm porous microspherical silica gel. J Chromatogr B 1997;692:405-12.
7) Kristinsson J:A gas chromatographic method for determination of antidepressant drugs in human serum. Acta Pharmacol et Toxicol 1981;49:390-8.
8) Sioufi A, Pommier F, Dubois JP:Simultaneous determination of clomipranine and its N-desmethyl metabolite in human whole blood by capillary gas chromatography with mass-selective detection. J Chromatogr 1988;428:71-80.
9) Namera A, Watanabe T, Yashiki M, et al.:Simple analysis of tetracyclic antidepressants in blood using headspace-solid-phase microextraction and GC-MS. J Anal Toxicol 1998;22:396-400.
10) 弘重壽一,有賀 徹:三環系抗うつ薬中毒における臨床薬理学的側面とTDM.中毒研究 2000;13:399-406.
11) 内藤裕史:環系抗うつ薬.中毒百科,南江堂,2001,pp366-7.

この記事についての問い合わせ先:広島大学医学部法医学 奈女良 昭
E-mailアドレス:namera@hiroshima-u.ac.jp

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