消化管除染(2) 活性炭


【要約】
 活性炭(activated charcoal)は,多くの物質と結合する吸着剤であり,それ自身は消化管から体内に吸収されないため,服用した中毒物質の吸収を減少させる.活性炭投与が臨床的転帰を改善するという大規模な臨床対照研究はないが,活性炭の吸着効果は動物実験とボランティアによる研究などで証明されている.活性炭には,すでに血中に吸収されている薬毒物の排泄促進効果もあり,禁忌例および活性炭に吸着しない物質以外のすべての中毒で活性炭治療を推奨する.

【原理・有効性】
 1) 活性炭の原理
 活性炭は,木材・泥炭などを熱分解した炭“charcoal”を,さらに600〜900℃に加熱して活性化“activated”した炭素である.この操作により病原菌は消失し,内部には多数の空洞がつくられ,950〜1,500m2/gの巨大な表面積を得る.多くの物質がこの孔の壁に結合する.理論的には,分子量100〜1,000程度の非イオン型の塩や疎水性の化合物がよく吸着される.
 活性炭の吸着は,可逆性で約1分以内に始まり,離脱はゆっくりと進行する.活性炭の吸着に影響を与える因子は,@消化管内の食物の存在,A消化管内のpHである.消化管内に食物が存在すると,薬毒物の吸収は遅くなるが,同時に,活性炭の吸着能力も低下する.とくに,牛乳やエタノールが存在すると活性炭の作用が減弱する.
 活性炭に吸着が良好なのは,薬毒物が非イオン化状態のときで,酸性物質はpHが低いほど,塩基性物質はpHが高いほど非イオン型が多くなり,活性炭への吸着がよくなる.弱酸性物質と活性炭との複合体は,胃から小腸に通過してpHが上昇すると離脱が生じる.この離脱に打ち勝つためには,活性炭の大量投与が必要となる.
 2) 繰り返し投与法
 静脈内に投与された薬毒物やすでに吸収された薬毒物でも,種類によっては,腸粘膜血管内から腸管の管腔内へ濃度勾配により拡散分泌する.このため,経口投与した活性炭が腸管内の薬毒物濃度を下げると血中濃度も低下する.この作用を腸管透析(gastrointestinal dialysis)という.活性炭を繰り返し投与すると,@腸管内に分泌される薬物の吸着(腸管透析の作用増強,腸肝循環の遮断),A消化管内で活性炭から遊離した薬毒物の再吸着などの作用により薬毒物の吸収を減少させる.
 3) 活性炭と胃洗浄の比較
 活性炭は薬毒物の服用後,可能な限り早期に投与すべきである.胃洗浄や催吐を行うと活性炭の投与が遅れる.また,胃洗浄により薬毒物が小腸内へ進行する危険性も指摘されている.服用から1時間以内の大量服毒もしくは毒性の高い物質の経口中毒では胃洗浄と活性炭投与を行い,それ以外では原則として活性炭単独投与を早期に行うことを推奨する.
 4) 緩下剤との併用
 活性炭と緩下剤の併用が臨床的転帰を改善することを証明した研究はないが,緩下剤を併用すると活性炭・薬毒物複合体の腸内滞在時間を短縮し,薬毒物の排泄を早めると考えられる.このため,緩下剤の併用を推奨する.
 5) 経口解毒剤との併用
 活性炭は経口投与した解毒剤をも吸着する.アセトアミノフェン中毒では解毒剤としてN-アセチルシステイン(NAC)を経口投与するが,NAC自身が活性炭に吸着される.各種検討の結果,近年は,NAC投与前に活性炭を投与しても問題はなく,先に投与した活性炭がNACを吸着する効果は臨床的には考慮しなくてよいと考えられている.

【適応】
 @ 投与のタイミング:活性炭の投与は,薬毒物服用から1時間以内が有効とされている.
 A 活性炭単回投与がとくに有効とされている薬物は,アスピリン,アセトアミノフェン,バルビツレート,フェニトイン,テオフィリン,三環系・四環系抗うつ薬などである.活性炭の吸着効果は強大であり,上記以外の多くの薬毒物に対しても,その効果が期待できる.今後さらに,各種薬毒物に対する活性炭の有効性を確認してゆく必要がある.
 B 活性炭の繰り返し投与が有効なのは,以下の特徴をもつ薬毒物である.@脂溶性,A血液中でイオン化していない,Bタンパク結合率が低い,C腸肝循環する,D体内分布容量(Vd)が小さい,E活性炭に吸着が良好,F腸溶剤,徐放剤,G薬物塊をつくる.実際には,テオフィリン(テオドール,テオロング),三環系抗うつ薬,フェノバルビタール(フェノバール),フェノチアジン系薬,オピオイド,カルシウム拮抗薬,抗コリン薬などが適応となる.臨床的効果は証明されていないが,繰り返し投与により排泄が増強されると考えられる薬物は,カルバマゼピン(テグレトール),フェニトイン(アレビアチン),サリチル酸(アスピリンなど),バルプロ酸,ジギトキシン,サイクロスポリン,フェニルブタゾン,ナドロール(ナデックス)などである.
 C 経口服用物質がはっきりとしていない場合も,とりあえず活性炭を投与する.
 D 妊婦でも,活性炭は体内に吸収されないため安全に使用できる.

【禁忌】
 活性炭投与の禁忌は,腸管閉塞,消化管穿孔である.また,腸管運動を抑制する薬物の服用や麻痺性イレウスによる腸蠕動の低下時も,相対的禁忌となる.禁忌ではないが,活性炭に吸着しない薬毒物は,強酸,強アルカリ,エタノール,エチレングリコール,鉄,硫酸鉄,リチウム,ヒ素,カリウム,ヨウ素,ホウ酸,フッ化物,臭化物などである.
 また,内視鏡検査が必要なときの活性炭投与は,視野の妨げとなるため,優先順位を考慮する.

【方法】
 1) 準備する物品
 活性炭は,わが国では薬用炭として市販されている.活性炭は飛散しやすく,衣服などに付着すると落とすのに苦労する.あらかじめ薬剤部でプラスチック製の広口瓶に小分けして入れ,蓋をした密閉状態で救急外来に何セットか保存しておくとよい.溶解液は,成人では水道水(微温水),小児では生理食塩液を推奨する.胃管を使用して投与するときは,太めの胃管(経鼻胃管18Fr程度)を用意する.胃洗浄後なら,その胃管をそのまま使用する.
 2) 実施の前に
 @ インフォームド・コンセントを得る:正常な判断ができると思われる患者には説明して,同意を得,その旨をカルテに記載する.ただし,意識障害や当事者能力のない心神喪失状態にあるときは,その対象とはならない.また,自殺企図者は一過性の心神喪失とみなし,承諾が得られなくても活性炭投与は緊急避難的に行うべきである.
 A 投与量と溶解法:成人では50〜100gを,小児では25〜50g(1歳以下では1g/kg)を推奨する.この投与量を成人では微温水300〜500mlに,小児では10〜20ml/kgの生理食塩液に溶解する.
 3) 実施方法
 @ 意識が清明なときには,溶解した活性炭をコップに入れ,座位で服用させることも可能である.
 A 意識障害がある,または,活性炭の独特の舌触りのため,服用が困難なときには,経口または経鼻胃管を通して胃内に注入する.このとき,胃内容物をできるだけ吸引したのちに活性炭を投与する.また,細い胃管からゆっくり注入すると,胃管内で固まることがあるため,18Frの経鼻胃管を使用し,カテーテルチップの注射器で素早く押し込むとよい.
 B 意識障害や咽頭反射が消失しているときには,誤嚥防止が重要であり,気道確保のため活性炭投与前に気管挿管を行う.
 C 胃洗浄後に活性炭を投与するときは,胃内容物をできるだけ吸引したのちに活性炭を投与する.吸引が不十分であると,活性炭投与により胃内容量が増大し,嘔吐する危険が高くなる.
 D 投与後1時間以内に嘔吐したら,初回量の半分を再投与する.
 4) 緩下剤の併用
 緩下剤は,薬毒物と結合した活性炭を短時間で体外に排出するため併用する.実際には,35%程度に希釈したソルビトール溶液(成人では1〜2g/kg,小児では0.5〜1.0g/kg)やクエン酸マグネシウムなどを使用する.緩下剤投与後6〜8時間で排便がないときは,緩下剤を繰り返し使用する.2回目以降は,初回量の半量を使用する.
 なお,腸洗浄に使用するポリエチレングリコール電解質液(ニフレックTM)を活性炭の溶解液として利用すると簡便であるが,投与前の混合は活性炭の吸着容量を減少させるという報告があり,推奨できない.
 5) 繰り返し投与法
 初回量は単回投与法と同量とし,2回目以降は初回量の半量を2〜6時間ごとに24〜48時間,繰り返し投与する.2回目以降の投与量は,0.5g/kgを2〜4時間ごとに,または20gを2時間ごとに,40gを4時間ごとに,60gを6時間ごとになど各種の投与法がある.投与回数よりも総投与量が重要である.初回投与時は,緩下剤を併用するが,それを繰り返し投与すると,体液・電解質障害を生じる可能性があり,2回目以降は原則として併用しない.
 6) 活性炭投与時の問題点−味と食感
 黒くて泥のようで,無味無臭ではあるが,口に含んだときのザラザラ感は相当不快である.この活性炭を経口摂取するには抵抗があり,わが国では経鼻胃管から投与されることが多い.小児での研究で,泥状の活性炭を紙コップに入れて飲ませたところ,多くの小児が嘔吐することなく容易に飲み込んだという報告がある.成人では,服用直前にサクランボのフレーバーを少量口腔内に滴下したところ,容易に飲めたとの報告もあり,工夫次第で成人でも経口投与が可能である.

【合併症】
 活性炭投与での合併症発生率は,意識清明時は3.6%,意識障害時には18.8%と報告されている.催吐剤や胃洗浄施行後の活性炭投与と単独活性炭投与との比較では,合併症の発生率に差がなかったとする報告もみられる.合併症は,嘔吐,便秘,消化管の閉塞,誤嚥などである.誤嚥の発生率は1.7%と報告されている.とくに意識障害時に,不十分な気道管理下に胃洗浄を行った後の活性炭投与で,誤嚥は発生しやすい.
 活性炭の繰り返し投与では,治療のための薬物(抗痙攣薬など)も体内から除去され,治療薬の血中濃度が低下する.とくに,高齢者では平素より各種治療薬を服用していることが多く,配慮が必要である.また,高齢者では,消化管の運動障害が存在していることも多く,注意を要する.
 小児では,活性炭と併用する緩下剤により体液・電解質障害が生じやすい.また,小児は気道が細いので,誤嚥による気道障害のリスクが高くなる.



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